気象庁ホームページでは、ご意見、ご要望を受け付けており、その回答作成が担当部署に回ってくるのですが、よくある要望に「風速の単位は秒速でなく時速にしてほしい」というものがありました。その要望理由としては、
・秒速は分かりにくい
・欧米では時速で表記している
ということが書かれているものがほとんどでした。
確かに、欧米では速度というと何でもかんでも時速で表記されている気がします(あまり詳しくは知りませんが)。また、車を運転すれば、時速何kmがどれくらいの速さかある程度は分かります。でも、「秒速は分かりにくい」というのはどうでしょうか。
この要望に対する答えとしては、「気象庁では長い間、風速は秒速で表記してきたのでご理解いただきたい」というものが定番でした。
でもある時、「秒速が分かりにくい」というのは、単に「秒速」の意味が分からないだけなのではないか? と思い、
「気象庁では、風速の単位は秒速の方が分かりやすいと考えています。秒速は1秒に何メートル進むか表したもので、空気の実際の動きをイメージしやすいと思います。例えば、秒速50メートルなら、1秒に50メートル進む速さですが、「1秒」の長さは秒針やデジタル時計の秒表示で分かるし、「50メートル」も、50メートル走をやったことがある人ならイメージできると思います。」というような答えを返したことがあります。それに対しては何の反論もありませんでした。
風速が時速で表記されていると、空気の具体的な動きをイメージできません。風速が時速40kmと言われても「1時間に40km」って、目の前の空気がどれくらいの速さで動くのか、よくわかりません。結局、40kmを3600秒(=1時間)で割って11.1m、「そうか、11m先のものが1秒後に目の前に来るくらいの速さか」のように秒速に直して考えてしまいます。
このように、風速を秒速で表記するのは、「実際の空気の動きをイメージしやすくするため」だと思われます。
では、台風の中心の動きはどうでしょうか。
気象庁では、台風中心の動く速度は時速で表記しています(船舶向けにはノット)。「1時間後に何km先まで進むか」を表示すれば、地図上で1時間後や2時間後の位置を簡単に推測できます。台風の動きは地図上の位置で認識するため、移動速度は時速で表記すると便利なのです。これを秒速で表示したらどうでしょうか。秒速10mと言われても、1時間後にどこまで進むのか全く見当がつきません。
いかがでしょうか。気象庁では速度表記に関して、その数値の利用のされ方を考慮の上、適切な単位を用いていると思われます。
(おまけ)
野球で、ピッチャーの球速が時速で表示されますよね。あれは「分かりやすさ」の観点からは適切でしょうか?
ピッチャーの手を離れたボールがホームベース上を通過するのは一瞬の出来事です。その速度を時速(1時間に進む距離)で表すのはどうかと思うのです。
私なら、ピッチャーの手を離れてからホームベースを通過するまでの時間(0.???秒でしょうか?)が分かった方が良いのでは?と思います。バッターは、その短い時間に判断してバットを振るわけです。その時間が具体的な数値で表示された方が、バッターの大変さ(技術の高さ、判断力)が分かりやすくなると思いませんか?
ついでに言えば、初速(ピッチャーの手を離れた時の速度)と終速(ホームベースを通過する時の速度)の差、または比が分かれば、打ちにくさの指標になるかもしれません。
(2020/4/20掲載)(2020/5/30一部修正)