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音楽と気象9 「春よ、来い」(詞・曲:松任谷由実)

ラジオを聞きながら仕事していますが、最近「春よ、来い」が何度か流れました。沈丁花の香るこの季節、春の足音がしっかり聞こえるこの季節に相応しい歌として定着しているように思います。

初めて聴いたのはNHKの朝の連ドラ「春よ、来い」のテーマ曲としてでした。

一回聴いて、大きなインパクトがありました。シンプルな旋律、自然な和音進行、そして文語体を含む歌詞が心の底までしみ込んできて、すぐに覚えてしまうような。ドラマの主題歌というのは、1回聞いただけではたいした印象が無く、何度も聞くうちにだんだん好きになっていくというものが多いと思うのですが、この曲は一回聞いただけで強い印象を残すという、すごい曲だったと思います。

さて、歌の冒頭、「淡き光立つにわか雨」と、いきなり気象に関係する歌詞が出てきます。歌詞なので、実体験に基づくものなのか、空想の産物なのかは分かりませんが、作者の住む関東で沈丁花の香る季節にこのような雨が降るのかについて考えてみます。

気象の専門家は、この歌詞を聞いてちょっと困惑するかもしれません。「にわか雨」でまず思い浮かべるのは、夏に入道雲が立ってざっと降ってすぐに止むような雨なのですが、関東でそのような雨が降ることは、沈丁花の季節には起こりにくいからです。でも「淡き光立つ」で空の明るさを感じるので、やはり厚い雲が垂れ込めて長時間降る雨ではなく、晴れていたのに突然降る雨なのでしょう。

関東で沈丁花の季節にこのような雨が降るとすれば、上空に強い寒気が流れ込む時です。冬型の気圧配置で北西風が吹いて寒気が流入する時、関東平野では基本的に晴れます。関東平野には2000m級の山脈を越えて風が流れ込むため、下降流となって雲が発生しにくくなるからです。でも上空(500hPa)に強い寒気が来ると大気の状態が不安定となって、関東平野でも対流雲が発生して雨や雪を降らせることがあります。一冬に1~2回でしょうか。せいぜい2~3時間くらい、関東平野のあちこちで雲が湧いて、雨や雪を降らせて消えていきます。

このような雨・雪は降る範囲が狭いため予想が難しいです。「どこかでは降るんだけど、どこで降るかは分からない」状態です。もしこの歌詞が実体験に基づくとすれば、その時の雨の予報がどうだったのか、気になるところです。

(2021/03/07掲載)