フェーン現象の判定 — 露点温度の利用
2020年8月17日に浜松で41.1℃の国内最高タイとなる気温が観測された際に、これがフェーン現象によるものかどうかが話題になりました。
ツイッターでは、この最高気温を記録する際に湿度が下がったことを記すツイートが増えたことが気になり、私はその一つに対し「念のため申し上げますが、フェーンの判断は湿度の下がりではできません。気温が上がれば水蒸気量が変わらなくても湿度が下がります。上空の乾いた空気が下りてきたかどうかは、露点温度で判断してください。浜松9時の露点温度25.2℃、12時19.3℃なので、フェーンの可能性大です。」という返信ツイートをしました。するとこれに対して別の方から「おっしゃるとおりなんですが、気温が上がれば湿度も下がるわけですから、卵が先かニワトリが先かと同じで、湿度が下がればフェーンが起きてると推定するのは問題ないと思いますが。」という意味不明の返信がありました。それですぐさま、「おっしゃる意味がよく分かりません。それだと、日中に日照により気温が上がってそれに伴って湿度が下がることは毎日のように起こっていますが、それらすべてをフェーンだと推定することになってしまうのでは? 露点温度を見ることにより、区別を付けられる可能性があると思います。」と返信したのですがこれに対する回答はありませんでした。
今回の浜松の場合、最高気温の出た時刻は12時10分で、普通に日射により気温が上がった場合にも最高気温が出る時間帯であり、この昇温にフェーン現象が関わったかどうかは簡単には判断できません。これが夜であれば、例えば24時なのに気温が30℃以上あって山越えの風が吹いているというような場合であれば、何も考えなくてもフェーン現象の影響と言えるのですが。
では、「露点温度を見ることによりフェーン現象の判別が可能」について簡単に解説してみます。
「フェーン現象」とは、湿った空気が山脈にぶつかって上昇した後、風下側に吹き降りた際に、気温が風上側よりも上がる現象のことです。風上側では、空気が飽和した後はエマグラムの湿潤断熱線に沿って気温が下がりますが、吹き降りる際は乾燥断熱線に沿って気温が上がるため、その傾きの差により、風上側より風下側の方が気温が上がります。「ドライフェーン」と呼ばれる現象もあって、これは必ずしも風上側で飽和していなくても、標高の高い所の空気が吹き降りる場合は乾燥断熱線に沿った気温の上昇があるため、平均的な気温プロファイル(高度100m上がると気温が0.6℃下がる)であった場合などには、風下側で風上側より高温となる状況のことです。
フェーン現象かどうかは、どのように判定すればよいでしょうか。
高い所から吹き降りる空気の気温は乾燥断熱線に沿って上がり、露点温度は混合比が保存されるため等混合比線に沿って上がります。例えば900hPaで25℃の飽和空気(気温、露点温度とも25℃)があったとして、これが地上(1010hPaとします)に吹き降りた場合を考えます。エマグラムで見ると、気温は35℃くらい、露点温度は27℃くらいになります。(エマグラムは、ワイオミング大学の高層気象データのページ http://weather.uwyo.edu/upperair/sounding.html で、700mbまでの図を使うと便利です。傾きが一番緩い線が乾燥断熱線、一番急な線が等混合比線です。)このように、上空の空気が下降する場合、気温が大きく上昇するのに比べて、露点温度の上昇はわずかです。
通常、混合比は上空ほど小さくなっていますので、上空の空気が降りてくると露点温度が下がります。フェーン現象ではなく単に日射だけで昇温した場合は露点温度が変わりません。「上空の空気が下りてきたかどうかの判定には露点温度を見てください」というのはこのためです。
ただし、この方法がいつも必ず使えるわけではありません。私は「露点温度を見ることにより区別を付けられる可能性がある」と言っています。区別が付けられない場合とは、下の方に乾いた空気がある場合です。下に露点温度の低い空気があれば、上から降りてきた空気との区別がつきません。ただ、日本のような周りを海に囲まれた国では、下の方に上より露点温度の低い空気がある場合は少ないとは思いますが。
(2020/11/13掲載)