積雪が平年の30倍?・・・大雪の表現法について

先日、彦根で大雪となった時に「積雪が平年の30倍になっている」という報道が何度かありましたが、「違うのでは?」と疑問に思いました。何が「違う」のか、説明してみたいと思います。主なポイントは、
・大雪時の積雪量を積雪の平年値と比べることの問題
・比較の仕方「平年の〇〇倍」の問題
・正しい表現法
です。

1.積雪の平年値との比較について
比較対象となった積雪の平年値についてです。特に雪があまり降らない所の平年値について。
積雪は雪が降った時に大きくなり、その後融けて、積雪はすぐに減ってゼロになり、次に雪が積もるまでゼロが続きます。
これをグラフにしたものを考えてください。横軸に時間、縦軸に積雪深を取ります。すると、時々雪が降って、その時だけスパイク状に山があり、普段はゼロというグラフになります。このような所の平年値がどうなるかと言うと、このグラフをならしたもの、つまり、スパイク状の山を削り取って、ゼロの所を埋めたグラフになります。例えば、ある日10cm積雪があって翌日には全部融けて0cmになった場合、それをならすと、1cmが10日間続くというようなことです(厳密には違いますが)。これを冬の期間全体で見ると、長期間ゼロよりは大きいけれど小さい値が続くというグラフになります。

ここで、雪の多い地点の積雪の平年値のグラフを考えてみましょう。
雪が降り始める頃から次第に積雪の平年値が増えて2月か3月にピークとなり、その後は減っていくというもので、山のような形になります。このグラフが表すものは季節の進行です。冬が深まるにつれて積雪は増え、春には次第に減っていきます。ですから、現在の積雪と平年の積雪を比べるのは、今、季節がどれくらい進行しているか、あるいは今季の雪が多目なのか少な目なのかを見ようとする時に役立つのです。実は雪の少ない地点の、いつも同じような値のグラフも、低いながら山の形になっており、季節の進行を表現しているのです。

大雪が降った時の積雪値は、グラフのでっぱった部分であり、それを削ってならしたのが積雪の平年値なので、大雪時の積雪値は必ず平年値よりかなり大きくなります。積雪値には、それまでの累積降雪量と融雪量が反映していて、その平年値となると、さらにそれを30年分平均してどうなるかということなので、1回の大雪で大きくなった積雪値とは異質のデータであり、比較すること自体が無意味と思われます。

2.比較の仕方「平年の〇〇倍」について
そもそも比較すべきでないものを比較していることが問題なのですが、その比較結果を「〇〇倍」と表現していることも問題で、平年の積雪値がゼロの地点の場合は「平年の無限倍」になってしまうので使えません。
例えば「降水量が〇月の平年の月降水量の2倍」と言えば、「〇月に平均的に降る降水量の2回分」であり、「〇〇倍」は「〇〇回分」の意味で、実際に起こったことの内容を明確にイメージできますが、「積雪が平年の30倍」と言った場合、これまで説明したとおり「平年」が仮想的な数値になっているので、「何の30回分」なのか具体的にイメージできません。

3.大雪の具体的な表現の仕方
では、降った雪の量の多さをどう表現すればよいのでしょうか。
1.で述べた通り、平年の積雪値は季節の進行を表すので、「現在の積雪深は、平年の〇月〇旬頃と同じ」というような比較をするなら意味があるのですが、それでは大雪かどうかは表現できません。
大雪の表現には降雪量を使うと分かりやすいです。「過去の大雪時の総降雪量」との比較や、「〇月の平年月降雪量の〇〇%」というような表現をすれば、大雪の度合が表現できると思います。
積雪値を使うなら、「過去の大雪時の最深積雪」と比べれば、意味ある比較になると思います。

(2022/1/1掲載)

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