古気候の本を読む3 「地球46億年 気候大変動」

「地球46億年 気候大変動」 横山 祐典 著  ブルーバックスB-2074

3冊読んだ古気候の本の3冊目です。前2書のタイトルにはそれぞれ8万年、10万年とあり、現生人類出現よりも後の気候変動を扱っていますが、3冊目の本書は4桁違う46億年間の気候を扱っており、全く異なる次元の内容になっています。とは言え、もちろん、過去10万年のことも包括されています。

前2書でも思いましたが、改めて思うのは、ここ数十年間でのこの分野(古気候)の大きな進歩です。私は気象庁に40年いて、退職後3年目を迎えていますが、その間全くこの分野の勉強はしませんでした。その間に目覚ましい進歩があり、様々なことが明らかになっています。

本書には、これまでに分かった古気候に関する様々なことと、それらに取り組んだ研究者たち(著者を含む)のことが書かれています。古気候(気温)の具体的な数値、それを知るための原理、それに取り組んだ研究者たちの才能や苦労が詳しく紹介されています。

以下、本書に記載された内容のうち、私が本書を読んで初めて知ったことや、強く印象に残ったことを列記していきます。少ない字数では正しく表現しきれないこともありますので、詳しくは本書をお読みください。

・ズース効果:産業革命以降CO2は増加したが14Cの濃度はわずかに減少。これは、半減期5730年の14Cは石炭や石油には全く含まれておらず、それらを燃焼させて発生するCO2の中には14Cが含まれないため。つまりCO2増加の要因は化石燃料の燃焼によることの証拠。ハンス・ズース(スクリプス海洋研究所)の1957年の論文。

・「岩石の風化」が大気中のCO2を取り除く作用をする。地球史的な長い時間スケールで考える場合、風化の効果は大きい。

・「同位体温度計」:シカゴ大学のハロルド・ユーリーが考案。同位体分別(化学反応や相変化の際に温度に応じて同位体比が変化する)を利用し、化石等に残された物質の同位体比測定によりその時(同位体分別が起こった時点)の温度を推定するもの。これにより過去の気温がわかる。1947年に論文発表。

・サムエル・エプスタイン:ユーリーと共に同位体温度計(分析装置)を開発。検体を標準物質と同時に測定、標準物質とのズレを測って精度を高めることを考案(1948年頃?)。

・ニック・シャックルトン:同位体分析装置の精度を上げる改良を行った。ユーリーらの算定式を見直したことにより、海水の酸素同位体比変化から氷床量の増減を推定可能なことに気付く(1960年代?)。

・暗い太陽のパラドックス:太陽光度は少しずつ増えている(太陽標準モデル)。つまり昔の太陽は今より暗く(到達するエネルギーも少なかった)、大気の組成が現在と同じなら地球は氷結したはずだが、実際には35億年前には海(氷結していない)の存在した証拠があり、謎とされてきた。太陽が本当に暗かったことに対する疑義は、梶田隆章らがニュートリノに質量があることを発見したことにより解消。現在も完全な解決には至っていないが、太陽が暗かった時にはCO2やメタンが現在より多かったと推定され、それらの温室効果を想定することにより説明可能となりつつある。

・2回の酸化イベント:地球大気には現在、金星や火星にはない酸素があるが、地球誕生の頃にはほとんど無かった。それが、20~25億年前と5~7億年前の2回の酸化イベント(大気中の酸素濃度上昇)があり、5億年前に現在と同じ濃度となった。その事実と仕組みについては解明済み。光合成バクテリア、プレートテクトニクス、炭素レザボアが関係している。なお、この酸素濃度上昇により生物が生息しやすい状況となり、5億年前に「カンブリア爆発」と呼ばれる生物種の増加が起こり、1万種以上の生物が誕生した。

・中生代の高温:白亜紀の平均気温は24~29℃で、CO2濃度は1000~2400ppmであった。高濃度が維持された理由は、火山活動が活発であったこと(太平洋に見られる巨大海台を形成)、プレートの移動速度が速かったこと、大陸地殻が沈み込む部分(陸弧)が長く、かつ沈み込む岩石の組成が、噴火により多量のCO2を発生させるもの(炭酸塩岩に富む)であったこと(プレート境界で沈み込んだ岩石がマグマとなって噴火する)など。著者らの論文:2013年。

・大陸移動説の証拠:ウェゲナーが提唱した大陸移動説(プレートテクトニクス)は、1957年に提案された「モホール計画」や、その後の深海掘削プロジェクトによる採取岩石の年代測定により、海嶺で生まれた海底が沈み込み帯に向かって移動することが明らかになり、正しいことが証明された。

・新生代の寒冷化:約8000万年前に、アフリカ大陸の移動に伴い海洋地殻が隆起してオフィオライトという岩石帯がITCZ(熱帯収束帯)の風雨にさらされたことによる風化により大気中のCO2が減少、約5500万年前にもインド亜大陸の移動に伴って同じことが起こり、この2回のCO2濃度減少が、新生代の寒冷化の原因となった(ヤゴウツらの2016年の論文)。

・南極氷床の形成:3400万年前頃に、約30万年をかけて急速に形成された。大陸移動により周南極海流が形成され、低緯度からの海流による熱の供給が断たれたため。

・南極氷床量の過去の変動は、CO2濃度の変動との対応がよく、600ppm以上になると氷床が一気に減少する可能性が高まる(ピーター・バレットらの2016年の論文)。

・ミランコビッチサイクルとその証明:セルビアのミルティン・ミランコビッチが、地球の自転軸の傾きの変化、公転軌道の離心率の変化、自転軸の歳差運動(それぞれ1万~10万年程度の周期変動)に伴う日射量の変化が気候変動を引き起こすという仮説を発表(1941年に研究成果集の原稿完成、出版は戦後)。ジョン・インブリーらがCLIMAP(国際海洋調査計画における、古気候関連分野のエキスパートを集めたチーム、ラモント・ドハティ地球科学研究所)を結成して調査を進め、ミランコビッチ仮説の正しさを証明した(1976年論文)が、未解明部分(10万年周期が卓越する仕組み)もあり。

・最終氷期最寒冷期(約2万年前)の氷床量の復元:造礁サンゴ化石による過去の海水位推定、ウラン-トリウム年代測定法、アイソスタシー考慮により、海水位は現在より130m低かったと推定され、その分の氷床は北米大陸、スカンジナビア半島、南極大陸の大陸棚に分布していていたことを解明。

・南極の氷床コアによる過去80万年の変動:気温とCO2濃度の対応が明瞭で、氷期は180~200ppm、間氷期は280ppmとなっている。気温はCO2濃度に依存しているが、CO2濃度の変動メカニズムは未解明。

・D-O(ダンスガード-オシュガー)イベント、ハインリッヒイベント:12万年前以降に起こった北半球の急速な寒冷化イベントは、熱塩循環の乱れによると考えられている。北半球が寒冷化する時に南半球では温暖化(逆位相の変動)が起こっているが、これをよく表現するモデルが提案されている。

以上ですが、結局、地球46億年の全体にわたって、CO2など温室効果ガスの濃度が気候変動を主導してきたという印象を強く持ちました。人類の活動により、地中に石炭や石油として固定された炭素を燃焼させて大気中のCO2濃度を増加させたことは、地球の気候史的に、とても大きなイベントであったようにも感じました。人類の英知により、大気中のCO2を再び地中に固定することはできるのではないかと思うのですが、それをやった場合に寒冷化が起こると、それはまた大変なことになるので、難しい判断が要求されることになると思われます。

(2020/11/1掲載)

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