暑さ指数「WBGT」の危うい説明 ・・・ 熱中症警戒アラートの試行開始

7月1日から「熱中症警戒アラート」の試行が関東甲信地方で始まりました。
暑さ指数(WBGT)の予想値が33℃を超えたら同アラートが発表されるそうです。

WBGTについて、詳しいことは知らなかったのでWEBで調べたのですが、環境省の「熱中症予防サイト」に「暑さ指数(WBGT)について学ぼう」というページ https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_lp.php があり、図はその一部ですが、これを見て頭の中はクエスチョンマークだらけになりました。
WBGTには、気温、湿度、輻射熱が、1:7:2の割合で寄与すると書かれています。
輻射熱は置いておくとして、気温と湿度の寄与度の比が1:7って、どういう意味? と思いませんか。
気温10℃、湿度100%と 気温40℃、湿度0%の場合は、前者の方がWBGTは大きくなるということになってしまうのでは?
でも湿度にかかわらず、気温40℃の方が気温10℃よりも熱中症の危険度は高いでしょう?
根本的におかしくないですか? 熱中症の危険度は、気温がある程度以上に上がることによってまず高まるのであり、それなのに気温の寄与が湿度の1/7というのは理解に苦しみます。

だってそもそも、湿度には気温が大きく関係していて、気温によって定まる飽和水蒸気量に対する実際の水蒸気量の比が湿度なのだから、湿度の値には気温が少なからず寄与しているはずで、その寄与分は「1:7」のどこかに既に含まれているの? という素朴な疑問も湧きます。

そこでさらに、「暑さ指数(WBGT)の詳しい説明」 https://www.wbgt.env.go.jp/doc_observation.php に進んでみると、そこにはなんと、
WBGT(℃) =0.7 × 湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度 (屋外での算出式)
という式が載っていました。なんだ、そういうことですか。湿球温度のことを湿度と言っていたのですね。
これはとんでもない誤りです。
湿球温度は、「温度」であり単位は℃です。一方、湿度は水蒸気量と飽和水蒸気量の比で単位はありませんが、通常は%で表し、0~100の範囲になります。つまり、上の式の湿球温度の所に湿度の値を入れるわけにはいきません。

おそらく、この資料を作った方は、「湿度の寄与も大きい」ことが言いたかったのだと思います。でもそのためにとんでもない誤りを犯してしまいました。
湿球温度は確かに湿度と関係はあります。でも同じくらいに乾球温度も湿度に関係があります。乾球温度、湿球温度から湿度を求める式を見れば明らかだと思います。

現在は「試行」ですが、本運用になる前に、是非、この誤った内容は改めていただきたいと思います。
湿度の寄与の大きさをアピールしたいのなら、実際の数値を使って、同じ気温に対して湿度の値によりWBGTがどれだけ変化するかを示せばよいのではないでしょうか。例えば、気温30℃、35℃、40℃のそれぞれについて、湿度20%、50%、80%の時にWBGTがどうなるのかの表を示す等。

(2020/7/3掲載)

 

2021/7/8追記

「熱中症警戒アラート」は2021/4/28より全国で運用が開始されました。昨年の試行の際に、当サイトではWGBTの説明資料に誤りがある旨指摘し、環境省へは別途メールを送って、本運用開始までには誤りを直した方が良いとお知らせしました。

しかし残念ながら、当該資料は階層は下がったものの、依然そのまま閲覧可能な状態になっています。

私は決して、湿度の高低によりWGBTの値が大きく変わることを否定するわけではありません。それを説明しようとする資料の内容に誤りがあると言っているだけです。正しい気象知識の普及の観点からは看過できない誤りです。

この資料を鵜呑みにすれば、気温がいくら低くても、湿度が高ければWGBTは大きいことになります。あるいは、湿度が低ければ、いくら気温が高くてもWGBTは小さいことになります。事実に反します。

WGBTの値に対する(気温の効果):(湿度の効果)=1:7 という明らかな誤りだけは、何とかできないでしょうか。

初心者向けの「やさしい説明」と題されているだけに、そこで平然と誤りが語られるのは罪が重いと思います。この資料を何も考えずに引用、転載したりすることは是非とも避けていただきたいと思います。よろしくお願いします。

(2021/7/8掲載)

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