古気候の本を読む1 「気候文明史-世界を変えた8万年の攻防」

「気候文明史-世界を変えた8万年の攻防」田家 康 著 日経ビジネス人文庫
気温に興味を持つ者として、過去の気温についても知りたいと思い、このところ3冊の本を読んだ1冊目です。

現在の気温については常に興味を持っていましたが、過去のことはほとんど知りませんでした。
本書を読んでまず思うのは、バックグラウンドとなる知識の膨大さです。「文明史」と言うからには、もちろん気象の知識だけではダメで、いわゆる文系の広範な知識が必要とされる気はしますが、末尾の文献から分かるように、「気候と文明」以下、分厚そうな本などがずらりと並んでいます。これら全ての知識に基づいて、人類そのものや人類の築いた文明と気候との関係が論じられていきます。

次に思ったのは、「こんなこと学校の世界史では習わなかった!」です。学校の世界史ではいくつかの文明の勃興・衰退、様々な王朝の興亡などを習いますが、本書では特に「衰退」や「滅亡」に気候が関係していることが論じられています。考えてみれば人間が生きていく上で「食」は基本中の基本であり、気候が変わって食糧の供給がうまくいかなくなれば、政治体制に影響が及ぶことは当然だと思われます。でも学校の世界史でそのようなことを習った記憶はありません。「民族の移動」も、「〇〇族に追われて」というのがその理由だったと思いますが、なぜ〇〇族が移動せざるを得なくなったのか、その原因が気候の変化であったと習うことはありませんでした。

「日本史の謎は地形で解ける」(竹村公太郎著)という本を読んだことがありますが、「世界史(日本史も含む)の謎は気候で解ける」ということも大いに言えるのではないでしょうか。本書を読んだ後は、むしろ、「この時期の低温(高温)が歴史にどのような影響を及ぼしたのか?」という観点からの興味が湧いてきました。

もう一つ思ったのは、過去の気候を知る手がかりとなる資料の意外さです。アッカド帝国の穀物配給に関する資料とか、ヨーロッパのブドウの栽培地域や収穫量の記録とか、言われてみれば確かにそれらは過去の気候を知るための重要な情報ですね。日本の諏訪湖の御神渡りについても500年以上の期間の記録があるそうですが、知りませんでした。当サイトは「気温のページ」だけに、過去の気温やそれに結び付く情報等のリストも掲載できればいいなと思いました。

最も重要なことは、グリーンランドや南極の氷床コアの分析等により、気温の低い時期(氷期)には、温暖な時期に比べて平均気温が低いだけでなく、気温の変動が大きかった(数百年で10℃以上の変動)ことを知ったことです。不勉強で全く知りませんでしたが、ここ30年くらいの間に古気候に関しては大きな進展があったのですね。これを知ってしまうと現在の温暖化予想が正しいのか心配になります。目にする予想は100年かけてなだらかに気温が上昇するものばかりですが、何らかのきっかけで過去の気温大変動の状況に移行することはないのでしょうか。気候モデルで過去の大変動を再現できるものはあるのでしょうか。いろいろ疑問が湧いてきます。ご存知の方は教えてください。

(2020/6/20 掲載)

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